例題で学ぶ TCAD入門ガイド(Linux版)

目次:

第1章: はじめに
第2章: マウスによるクイックスタート・ガイド
2.1: DeckBuildランタイム環境ウィンドウ
2.2: 例題の読み込みと実行
2.3: 結果の表示
2.4: 入力ファイルの自動生成と編集
第3章: マニュアルの活用法 - 簡単なセルフ・トレーニング
第4章: Webベースのその他の情報

第1章: はじめに

本書は、シルバコのTCAD製品を初めて使用するユーザを対象としています。本書の狙いは、初めてのユーザが、インストール後すぐにソフトウェアを実行できるようにすることです。 チュートリアルでは、シミュレータで使用されるすべてのパラメータの説明や定義をマニュアルから短時間に効率良く検索する方法も解説します。関連する物理が記述されている章に相互参照でジャンプすることで、方程式や、方程式が使用される背景にある物理を理解できます。 その他の資料や参考文献として、シルバコ・ジャパンWebサイトのTCAD資料ライブラリにある豊富なテクニカル・マテリアルや公開論文を紹介します。

第2章: マウスによるクイックスタート・ガイド

2.1: DeckBuildランタイム環境ウィンドウ

シルバコのTCADソフトウェアを短期間でマスターするための鍵は、多用途、多機能なDeckBuildランタイム環境です。DeckBuildを使用すると、入力ファイルの自動生成、既存の入力ファイルの編集、パワフルなパラメータ抽出ルーチンの使用、DOE (実験計画)の生成、入力ファイル内の任意のデータの変数化などが可能ですが、新規ユーザにとって最も重要なポイントは、さまざまな電気的、光学的、磁気的テクノロジに対応した例題を事実上何百個も搭載していることです。

では、早速チュートリアルを始めましょう。

コンソール・ウィンドウを開き、本チュートリアルで作成されるテンポラリ・ファイルを置くためのディレクトリを作成します。たとえば、”tutorial”という名前のディレクトリを作成してそのディレクトリに移動するには、コンソール・ウィンドウに次のように入力します。

mkdir tutorial <return>
cd tutorial <return>

次に、以下のコマンドを入力してDeckBuildランタイム環境を起動します。

deckbuild <return>

モニタ上に図2.1と同じようなDeckBuildランタイム環境が表示されます。

DeckBuildのGUIインタフェースは、2つの部分に分かれています。上部ウィンドウには現在の入力ファイルが表示され、下部ウィンドウには入力ファイルの実行時に出力が表示されます。

図2.1 : DeckBuildランタイム・インタフェースGUI
2.2: 例題の読み込みと実行

入力ファイルは、ユーザが作成するか、または例題ライブラリから読み込みます。ソフトウェアのシンタックスをマスターするために最も効率的な方法は、まず例題を読み込むことです。DeckBuildランタイム環境ウィンドウから例題を読み込むには、次のメニューを順に右クリックします。

[Main Control] → [Examples]

新たに開いたウィンドウ[DeckBuild:Examples]には、例題のカテゴリが47個リストされます。図2.2では、上から15番目までのカテゴリが表示されています。残りのカテゴリを表示するには、ウィンドウ右側のスクロールバーを使用して下にスクロールします。

図2.2 : DeckBuildの例題カテゴリ(上から15番目まで)

各カテゴリの例題リストを表示するには、任意のカテゴリをダブルクリックします。1番目のカテゴリ「MOS1: MOS Application Examples」をダブルクリックすると、図2.3に示すようなリストが表示されます。このカテゴリには例題が15個あります。

図2.3 : 「MOS Application Examples」のリスト

例題の説明を確認するには、その例題をダブルクリックします。ここでは、1番目の例題、「NMOS : Id/Vgs and Threshold Voltage Extraction」をダブルクリックし、この例題の説明を表示します。その結果が表示されたウィンドウを図2.4に示します。説明をすべて読むには、ウィンドウを下にスクロールします。

図2.4 : 例題の説明をウィンドウに表示

この例題をDeckBuildランタイム環境に読み込むには、[DeckBuild: Examples]ウィンドウの右上にある[Load Example]ボタンをクリックします。DeckBuildのメインウィンドウは図2.5のように表示されます。

図2.5 : 例題の入力ファイルを読み込んだ後のDeckBuildウィンドウ

例題の実行は[run]ボタンをクリックするだけです。実行後、画面に2つのプロットが表示されます。1つ目のプロットはプロセス・シミュレーションが実行された構造のカラーの等高線プロット(ストラクチャ・ファイル;*.str)であり、”Net Doping” を表示しています。2つ目のプロット(線グラフ;*.log)は、単純なしきい値電圧、”Vg” vs “Id”のプロットです。それぞれのプロットを図2.6と図2.7に示します。 ただし、例題については必ずしも実際にシミュレーションを実行する必要はありません。これらのストラクチャ・ファイルおよび線グラフは[Load Example]ボタンをクリックした時点で現在のワーキング・ディレクトリに読み込まれているので、結果だけを表示する事もできます。

図2.6 : プロセス・シミュレーション実行結果の構造 (“Net Doping”を表示)
図2.7 : デバイス・シミュレーション実行結果の線グラフ(“Vg” vs “Id”を表示)
2.3: 結果の表示

シルバコのビジュアライゼーション・ツールであるTonyPlotは、多機能なプロット・プログラムです。このチュートリアルでは、基本的な機能の一部のみに触れます。シルバコのTCADパッケージにストラクチャ・ファイルまたは線グラフを保存する際、ストラクチャ・ファイル・プロットや線グラフを作成するために必要なほぼすべての変量が自動的にファイル内に含まれ、プロットが可能になります。 たとえば、前項のストラクチャ・ファイルのプロットにおいて、その他の計算された変量、たとえば”Donor Concentration”をプロットするには、TonyPlotのメニューを次の順にクリックします。

[Plot] → [Display] → [Define] → [Contours]

上記の順にメニューを選択した場合、図2.8に示すように2つのダイアログ([Tonyplot: Display(2D Mesh)]および[Tonyplot: Contours]ダイアログ)が新しく表示されます。 [Tonyplot: Contours]ダイアログの[Quantity]プルダウンリストをクリックすると、プロット可能な変量のリストが表示されます。新しい変量”Donor Concentration”を選択して、[Apply]ボタンをクリックします。

図2.8 : プロット可能な変量選択時のダイアログ

あるプロットの「カットライン」スライスの解析が必要になる機会は多いでしょう。カットライン機能を使用するには、その他のプロット関連のダイアログを[OK]ボタンで閉じてからメイン・プロットに戻り、次のメニューを順にクリックします。

[Tools] → [Cutline]

ここではデフォルトで

ここではデフォルトである垂直カットラインのアイコンを使用しますが、[TonyPlot: Cutline]ダイアログでは水平または斜めのカットラインも選択できます。メイン・プロットに戻り、カットラインを開始したい位置で左クリックしてドラッグし、カットラインを終了したい位置でマウスを離します。マウスを離すと、現在表示されている変量のカットラインを示すカットライン・プロットが自動的に表示されます。カットラインによるグラフ作成が完了したら、[TonyPlot: Cutline]ダイアログの[OK]ボタンをクリックします。 この新しいカットラインの線グラフに他の変量を重ねて表示するには、この線グラフを左クリックしてアクティブにし(プロットを囲む白い境界線がアクティブなプロットを示します)、次のメニューをクリックします。

[Plot] → [Display]

線グラフ上に重ねて表示したい他の変量を選択します。たとえば、この線グラフに”Arsenic”、”Boron”、”Phosphorus”を追加すると、図2.9のようになります。”Vg” vs “Id”のグラフでも、同じように操作することで他の電気的特性を重ねて表示できます。

図2.9 : カットラインのグラフ

最後に、端末やコンソール・ウィンドウで“tonyplot <filename>”と入力すると、任意のファイルをプロットすることができます。また、DeckBuildでストラクチャ・ファイル名をハイライトした状態で次のメニューをクリックしても直接構造をプロットできます。

[Tools] → [Plot] → [Plot Structure]

シミュレーション中に生成されたストラクチャ・ファイルを自動的にプロットするには、入力ファイルに次の行を追加します。

structure outfile=<filename>
tonyplot <filename>

シミュレータは入力ファイル内のそのポイントまでに生成された構造をストラクチャ・ファイルとして保存します。そして、そのポイントに到達すると自動的にプロットを表示します。保存/プロットするストラクチャ・ファイルの数に制限はなく、シミュレーション中の任意のポイントで実行できます。

2.4: 入力ファイルの自動生成と編集

これまでの項で、TCAD例題を読み込み、実行し、その結果を表示する方法を一通り説明しました。本項では、簡単にユーザ独自のプロセス・シミュレーション向け入力ファイルを作成したり、既存の入力ファイルを編集したりする方法を説明します。

入力ファイルはすべて単純なASCIIテキスト・フォーマットのため、どのASCIIテキスト・エディタを使用しても入力ファイルを作成できます。しかし、DeckBuildは、簡単なGUIを使用してプロセス・シミュレーション向け入力ファイルを自動的に生成する機能を備えています。

説明を簡略化するため、プロセス・シミュレーション用入力ファイルを一から繰り返し作成する代わりに、すでに用意されている例題入力ファイルに行を追加する方法で説明します。この手順をプロセス・ステップごとに繰り返すことで、同じ手法を用いてすべての入力ファイルを作成することができます。

プロセス・シミュレーションは、シミュレーション空間と初期基板を”line”ステートメントと”init”ステートメントで定義(先ほど読み込んだ例題の先頭の数行を参照)した後は、単純に、多数の連続した拡散、注入、エッチング、デポジションで構成されます。DeckBuildを使用すると、これらの各ステップを自動的に生成できます。

例題の入力ファイル[DeckBuild]に戻ります。たとえば、”P-Well Implant”の後に、更に低エネルギー10keVの”P-Well Implant2”を追加する場合を考えます。DeckBuildの上部ウィンドウで、”P-well Implant”の1行下をクリックします。そして、次のメニューを順に右クリックすると、

[Commands] → [Process] → [Implant]

[DeckBuild: ATHENA Implant]ダイアログが表示されます。あとはこのダイアログに入力するだけでImplant行が追加できます。入力はスライダーを使用するか、数値を入力して[Return]キーを押します。10keVの”Boron”インプラントの場合、Dose (注入量)を1e11/cm2、Tilt (角度)を垂直線に対して7度、Rotation (回転)を主平面に対して27度に指定します。入力後の[DeckBuild: ATHENA Implant]ダイアログは図2.10のようになります。入力完了後、[Write]ボタンをクリックすると入力ファイルに新しい行が追加されます。

図2.10 : 入力が完了した[DeckBuild: ATHENA Implant]ダイアログ

すべてのデポジション、エッチング、注入、拡散、電極、メッシュの生成、ウェハの初期化およびストラクチャ・ファイルの保存などを、まったく同じ方法で作成することができます。入力ファイルはシンプルなASCIIフォーマットのため、直接的な構文を持つ入力ファイルのパラメータ編集は、DeckBuildが提供するコピー・ペースト機能や削除機能を使用すれば簡単に行えます。

第3章: マニュアルの活用法 - 簡単なセルフ・トレーニング

シルバコのTCADユーザーズ・マニュアルは、そのページ数の多さのため一見難しく感じますが、本章では、初めてのユーザでもとても簡単に必要な特定の情報を探し出すことができるマニュアルの読み方を、例題を用いて解説します。

「2.2: 例題の読み込みと実行」で読み込んだ入力ファイルにおいて、”models”で始まる行にある”SRH”というパラメータが入力ファイルのデバイス・シミュレーションのセクションでどのような働きをするのかを知りたいとします。

プロセス・シミュレータでもデバイス・シミュレータでも、すべての行の先頭にある語は「ステートメント」と呼ばれています。この例では、この行の先頭の語が”models”なので、パラメータ”SRH”の意味を理解するには、”models”ステートメントの詳しい情報を知る必要があることが分かります。

シルバコのすべての製品において、マニュアルはPDFフォーマットで提供されています。ここではデバイス・シミュレータの情報を探しているので、Atlasのマニュアルを開く必要があります。マニュアルはSMAN機能を通じてアクセスできます。SMANを起動するには、コンソールまたは端末ウィンドウで”sman”と入力します。図3.1にマニュアルの表示例を示します。

図3.1 : AtlasマニュアルのPDF表示例

このマニュアルで最も役立つセクションの1つに「Statements」の章があります。「Statements」章には、デバイス・シミュレータのすべてのステートメントがアルファベット順にリストされています。ここでは”models”ステートメントを探すので、PDFの本文左側の「しおり」で「Statements」章の横の”+”記号をクリックし、展開します。アルファベット順のリストをスクロールして、”models”ステートメントを見つけます。”models”ステートメントの横の”+”記号をクリックして展開し、内容を確認します。

ここからは場合によって操作が異なります。もし”SRH”が「Schottky Read Hall」の略であると見当がついている場合、「Recombination Models Flags」の項をクリックします。”SRH”パラメータについて何も分からない場合は、タイトルの「MODELS」をクリックして「MODELS」項の最初のページを開きます。この項の最初にはもう1つアルファベット順の表があり、”models”ステートメントに関連するすべてのパラメータがリストされています。表をスクロールして、”SRH”を見つけます。この表により、パラメータのタイプ、適用されるデフォルト値、および単位が分かります。パラメータのタイプが分かった後は、この項をさらにスクロールして、説明箇所(下図参照)を見つけます。また、[編集]→[検索]機能を用いて、”SRH”を本文から検索することもできます。いずれの方法によっても、図3.2に示すような、”SRH”パラメータの短い説明のある項を見つけられます。

図3.2 : SRHパラメータの説明を見つける

この情報はパラメータの意味とそのデフォルト値を知るのに十分です。しかし、このパラメータが使用される物理および式について理解する必要がある場合、「Statements」章の”SRH”の説明から相互参照されている「Chapter 3: “Physics”」および「Equation 3-290」でより詳細な情報が得られます。「Equation 3-290」への相互参照をクリックすると、”SRH”モデルの詳細な説明が表示されます(図3.3参照)。

図3.3 : 相互参照先の詳細なSRHモデルの説明

マウスを何回かクリックするだけで、パラメータの意味、このパラメータがシミュレータ内でどのように機能するかに関する詳細な物理的説明、および方程式に含まれるユーザ定義可能なパラメータを知ることができました。このようにして、例題と一緒にマニュアルを活用することができます。

第4章: Webベースのその他の情報

シルバコ・ジャパンのWebサイトhttp://www.silvaco.co.jp/には、さらに詳しい技術情報が数多く掲載されています。技術情報への入り口は「TCAD資料ライブラリ」セクションです。

http://www.silvaco.co.jp/tech_lib/index.html
このページでは、次の4つのカテゴリに情報がまとめられています。

1/ Simulation Standard (シルバコが発行する技術ジャーナル)
2/ プレゼンテーション資料
3/ シルバコ・ソフトウェアに言及している文献
4/ 公開論文 (査読済みの技術論文)

シルバコの『Simulation Standard』は、年4回発行のTCADジャーナルです。詳細なアプリケーション・ノートや、幅広いテクノロジに及ぶシミュレーション結果などが掲載されています。また、よく寄せられる質問に回答する「Hints, Tips and Solution」のコーナーもあります。『Simulation Standard』の過去何年分ものすべてのバックナンバーをシルバコ・ジャパンのWebサイトで入手できます。検索機能を使用して、興味のある分野の記事を探すことができます。

「プレゼンテーション資料」カテゴリの文書には、数種類のプレゼンテーション資料があります。たとえば、シンタックスの適用例と説明を示すPowerPointプレゼンテーションがあります。また、シルバコのTCADツールを授業に取り入れる方法を説明するアカデミック用の教材もあります。その他、シルバコのソフトウェアを使用した特許文献や、シルバコのソフトウェアに言及している教科書があります。

TCAD技術ライブラリの残り2つのカテゴリは、「シルバコ・ソフトウェアに言及している文献」と、多くのテクノロジに分類されている「公開論文」のリストです。これらすべてが執筆の過程でシルバコのソフトウェアを使用しています。

多すぎる程の情報量のため、シルバコではWebサイトに検索ボックスを設置することで情報の検索性を向上し、素早く効率的に必要な情報にたどり着けるようにしました。

以上により、シルバコのソフトウェアの簡単な使用方法と、TCADシミュレーションを成功させるためのセルフ・トレーニングに必要な情報を容易に検索する方法を解説しました。