量子力学2次元効果シミュレーション・モジュール

Quantum™は、半導体デバイスにおけるキャリアの量子閉じ込めおよび量子輸送など、さまざまな効果をシミュレートするモデルを提供します。セルフコンシステントなシュレディンガー—ポアソン方程式のソルバにより、静電ポテンシャルとセルフコンシステントに基底状態エネルギーのキャリアの波動関数が計算できます。シュレディンガー方程式によるソルバは、非平衡グリーン関数法(Non-equilibrium Green’s Function: NEGF)アプローチと連立させることができるため、強い横の閉じ込め状態にある2次元デバイスまたは円柱形デバイスのバリスティック量子輸送のモデリングが可能です。

量子モーメント輸送モデルにより、キャリア輸送における閉じ込め効果をシミュレートできます。そして、この方法は従来のドリフト拡散アプローチと同様に、容易に実行可能です。この量子閉じ込め効果は、エネルギー・バランス/流体輸送モデルにも含まれています。量子井戸モデルは発光デバイスにおける利得および自然再結合を計算する場合に閉じ込め効果を考慮します。Quantumは、シュレディンガー方程式を解くことによりトンネル電流を計算する非局所トンネル・モデルを備えています。このモデルは、トンネル電流における量子閉じ込め効果をオプションとして含み、バンド間トンネル・モデルおよび酸化膜トンネル・モデルに使用することが可能です。

シュレディンガー—ポアソン方程式

量子閉じ込め効果をモデリングするために、Quantumでは、シュレディンガー—ポアソン方程式を使用したセルフコンシステントなソリューションを提供します。1次元、2次元または円柱形状でシュレディンガー方程式を解き、固有エネルギーおよび波動関数を求めることができます。シュレディンガー方程式で得られた固有エネルギーおよび波動関数は、量子化された電子密度を求める際に使用され、次に2次元ポアソン方程式に引き継がれます。Quantumは、同じ矩形メッシュまたは三角形メッシュに対してシュレディンガー方程式とポアソン方程式を解くことが可能です。また、独自のシュレディンガー方程式の矩形メッシュを作成し、量子化をポアソン方程式のメッシュに補間することができます。予測・修正法を使用することで、高速な収束が実現します。リアル・スペースの2次元シュレディンガー・ソルバに加えて、高速プロダクト・スペース・ソルバが利用可能です。これにより、2方向における1次元ソリューションで得たプロダクトの線形組み合わせとして2次元波動関数を求めます。この方法による計算時間は1方向におけるノード数に比例します。これにより、矩形に近い形状を持つかなり規模の大きいデバイス構造をシミュレートすることが可能です。

上図は、GaAs/AlGaAsHEMTデバイス構造のゲート下の伝導帯のポテンシャル変動ならびに最初の7つのエネルギー準位を示しています。へトロ接合による閉じ込めおよびAlGaAs上層の空乏によるポテンシャル井戸が存在することがわかります。
上図は、最初の7つの電子波動関数を示しています。これらの波動関数は最下位から7つのエネルギー準位に対応しています。波動関数は、AlGaAs層のゲート直下の空乏により形成されたポテンシャル井戸のためへトロ接合の両側でピークが存在します。
円筒座標係のシュレディンガー・ソルバによって求められた半径における電子の波動関数(左図)と固有エネルギー(右図)です。異なる半径/軌道量子数の固有状態が合計固有エネルギーに対してソートされています。 

上図は、2Vのゲート・バイアスにおける矩形、三角形、円形のチャネルのセルフコンシステントな量子化された電子密度を示しています。これらの例では、異方性有効質量を持つシリコン・チャネル、アルミニウム・ゲート、1nmの酸化膜の構造を推定しています。また、三角形メッシュ、2次元リアル・スペース・シュレディンガー・ソルバが使用されました。

イン・プレーン有効質量mx=my=mt=0.19m0およびアウト・プレーン質量mz=me=0.91m0の谷を持つサラウンド・ゲート型トランジスタの直径10nmのチャネルにおける波動関数を示しています。 
グリッド・ポイント数5041のメッシュ上の高速なプロダクト・スペース2次元シュレディンガー・ソルバにより求められた、1020cm-3にドーピングされた14X14nm矩形構造のセルフコンシステントな量子化された電子密度を示しています。

非平衡グリーン関数法によるバリスティック量子輸送

MOS電界効果トランジスタがナノメータ構造体に微細化されるにつれ、横方向と輸送方向の両方向における量子効果はデバイスの特性を決定するために主要な役割を果たすようになりました。この新しい挑戦に取り組むために、シルバコは非平衡グリーン関数法(NEGF)をベースにした新しい量子力学モデルを展開しました。このモデルは完全な量子力学アプローチで、ソース-ドレイン・トンネル効果、バリスティック輸送効果、量子閉じ込め効果のような効果を同時に扱います。この新しいNEGFソルバによって、矩形または円柱形状を使用した、ダブル・ゲート型またはサラウンド・ゲート型MOSFETなどのデバイスのバリスティック量子輸送がモデリングできます。モデリングは、まず最初に、デバイスの横断片に対して1次元シュレディンガー方程式のソリューションを実行し、固有関数と固有エネルギーを求めます。次に、ソース領域からドレイン領域へ伝播していく、さまざまなサブバンド(モード)における電子密度および電流を、NEGF量子輸送方程式で計算します。一般的に、電子モードの結合の分析には、結合モード・スペース(Coupled Mode Space : CMS)方式が使用されます。均一の断面のようなよりシンプルな場合は、分離モード・スペース(Uncoupled Mode Space: UMS)方式を使用することも可能です。NEGFシミュレーションを用いて一般的な電流-電圧特性、セルフコンシステントな量子化された電子/電流密度を求めます。また、透過係数、局所状態密度、単位エネルギーごとの電子/電流密度などエネルギー依存量を保存することでデバイスの物理を明確にします。

横方向および輸送方向における量子化された電子密度分布を考慮しています。 
チャネルのアクセス部分が張り出した形状により、ソースとドレインの拡張領域に電流が広がります。
Vg = 1V時のダブル・ゲート型トランジスタにおけるセルフコンシステントに得られた電子密度の2次元等高分布(左図)および電流フロー(右図)
さまざまなゲート・バイアスに対してダブル・ゲート型トランジスタの輸送方向に沿った座標に対する電子密度(左図)および伝導帯エネルギー(右図)です。
NEGFアプローチで計算した、バリスティック・ダブル・ゲート型トランジスタ(DGT)のId-Vg特性(左図)およびId-Vd特性(右図)です。バリスティック輸送の条件により、計算された電流はデバイス構造に対して飽和します。
バリスティック・ダブル・ゲート型トランジスタにおける透過係数(左図)、電流スペクトル(中央図)、状態密度(右図)を示しています。 (a)透過係数の各段階は輸送に有効になる余分な電子のサブバンドに対応します。(b)最初のサブバンドは電流値に大きく寄与します。(c)ソース拡張領域における状態密度の振動は注入障壁での電子反射によるものです。

ドリフト拡散モード・スペース・モデル

ドリフト拡散モード・スペース(Drift DiffusionMode-Space: DDMS)モデルは、強い横の閉じ込め状態にあるデバイスにおけるキャリア輸送の準古典的なアプローチです。このモデルは、NEGFモード・スペースよりもシンプルなアプローチです。NEGFモード・スペース・アプローチ同様に、横方向の1次元/円柱形シュレディンガー方程式と各サブバンドの1次元輸送方程式に分離されます。ただし、このモデルでは、量子輸送方程式の代わりに、古典ドリフト拡散方程式を解きます。したがって、このモデルは、横方向における量子効果を得ることができますが、移動度、再結合、インパクト・イオン化、バンド間トンネル効果のAtlasモデルをすべて継承しています。

図は、DDMSにより計算された、ダブル・ゲート型ET(Lg=30nm、ボディ厚t=2nm)における電流フローを示しています。トラップ再結合(SRH)、バンド間トンネル効果(BBT)、インパクト・イオン化が存在する各サブバンドで1次元のドリフト拡散方程式を解きました。電流密度は、電子-ホール・ペアの生成のため、チャネルの端で増大しています。

電子のキャリア密度(左図)、ホールのキャリア密度(上図)、電子サブバンド最低エネルギー(左下図)です。緑線は生成再結合を考慮した場合を示し、赤線は生成再結合を考慮しなかった場合を示しています。電子-ホール・ペアの生成は、チャネルに蓄積されることにより、電子密度はわずかに増大(左図)し、ホール密度はかなり増大(中央図)していることがわかります。電荷蓄積により、しきい値電圧はリセットされ、電子に対するソース接合障壁が低下することがわかります(左下図)。
DDMSで計算されたドレイン電流-電圧の特性による大きなフローティング・ボディ効果とわずかな飽和を示しています。左図は生成再結合を考慮していない場合の電流-電圧特性を示し、右図はBBTとインパクト・イオン化を考慮した場合の電流-電圧特性を示しています

バンド間量子トンネル・モデル

Quantumは、半導体におけるバンド間トンネル電流を計算する機能を備えています。トラップがアシストする成分とダイレクト成分の両方を計算することが可能です。ダイレクト成分は局所モデルまたは非局所モデルを用いて計算します。局所モデルでは、各ポイントにおける電子・ホール対の生成率を求めるためにそのポイントの電界を使用しています。非局所モデルでは、トンネリングが可能な各エネルギーに対するトンネル電流をより高度に計算します。さらに、キャリアのソース(逆バイアス)とシンク(順バイアス)がデバイスの中で正確に空間的に分離された位置で発生します。非局所モデルを用いて計算されたトンネル・ダイオードの順電流の例を次の図に示します。

Hg0.78 Cd0.22 Teを縮退的にドーピングしたp-n型構造で構成されたトンネル・ダイオードに対する電流/電圧曲線です。材料のバンドキャップは116meV、デバイス温度は80Kです
トンネル・ダイオードの位置に対する伝導帯(Ec)エネルギー・プロファイルと価電子帯(Ev)エネルギー・プロファイルを示しています。アノードのバイアスは0.015Vで、最大トンネル電流に対応します。
トンネル・ダイオードの電子シンク(n型材料)とホール・シンク(p型材料)を示しています。アノードのバイアスは0.015Vです。

酸化膜トンネル・モデル

Quantumは、半導体チャネルから酸化膜を通るトンネル電流を計算するためのさまざまなモデルを備えています。モデルの中で最も高度なモデルは、透過行列法を用いてトンネル経路に沿ってシュレディンガー方程式を解き、エネルギーを統合します。シュレディンガー方程式の解に結合して、チャネルの量子化効果をオプションとして組み込むことができます。右図は、この高度なモデルを用いて計算したトンネル電流の例です。この例では、Fowler-Nordheimモデルの結果と比較しています。

アクセプタ・ドーピングしたチャネルと2nmの酸化膜厚を持つMOSキャパシタのトンネル電流対ゲート電圧です。Fowler Nordheimモデルによる電流は高いバイアスで直接トンネル電流と一致します。また、チャネル量子化による直接トンネル電流も示しています。量子化による電荷の中央へのシフトは、直接トンネル電流をより高いバイアスで最も著しく増大させる主な要因です。

量子モーメント輸送モデル

Quantumは、準古典的なドリフト拡散と流体キャリア輸送において量子閉じ込め効果を考慮します。ボーム量子ポテンシャル(Bohm Quantum Potential: BQP)モデルは、量子力学のボーム解釈をベースとする補助方程式を使用して、ポテンシャル・エネルギー項に依存する位置を計算します。ポテンシャル・エネルギーは、電子またはホール分布に大きく影響します。モデルは理論物理学をベースにしていますが、2つの合わせ込みパラメータを含む、いくつかの経験に基づく手法も保有しています。このフレキシビリティにより、材料物性の範囲内だけでなく、3次元においても、デバイスの異なるクラスの量子の振る舞いをモデルを使用して概算できます。電流フローが無視してよい程度であるという条件下で、シュレディンガー—ポアソン方程式の結果とBQPとは、ほぼ一致します。したがって、デバイス特性(I-V特性を含む)における量子閉じ込め効果は、より近似法としてシミュレートされます。

2nmの酸化膜を持つNMOSデバイス構造のゲート下の電子濃度。2Vのバイアスで強反転領域がデバイスに形成されました。BQPモデルのパラメータをより最適化することにより、BQP曲線をS-P曲線にさらに近づけることができます。
NMOSデバイス構造が反転状態になるにつれ、電子の総電荷はゲート電圧と共に増加します。BQP値とS-P値は相似であり、BQPモデルのパラメータをより最適化することにより、BQP曲線をS-P曲線にさらに近づけることができます。
NMOSデバイス構造における準静的ゲート容量対ゲート電圧です。 BQPモデルとS-Pモデルを用いて量子閉じ込め効果による反転しきい値電圧を正確に予測することができます。この例では、電子に対してのみ量子効果を考慮しています。
古典モデル、BQPモデル、S-Pモデルにより計算された、HEMT構造のAlGaAs/GaAs界面近くの電子密度です。
ドレインに0.5V印加時のHEMT構造におけるドレイン電流対ゲート・バイアスです。この例では、量子閉じ込め効果によりドレイン電流が減少しました。この効果は使用する特定の移動度モデルに依存します。
古典モデル、BQPモデル、S-Pモデルにより計算された、HEMT構造のAlGaAs/GaAs界面近くの電子密度です。チャネルに垂直な線に沿った、HEMT構造の横方向の電流密度(チャネルに平行方向)です。ドレイン・バイアス、ゲート・バイアスは共に0.5Vです。量子モデルでチャネルの電流密度が滑らかになっているだけでなく、AlGaAsでは伝導経路が平行になっていることがわかります。
ソースとドレインの中間にある3nm幅のチャネル断面における電子密度です。ゲート・バイアス、ドレイン・バイアスは共に0.5Vで、断面の位置におけるキャリア温度はおよそ630Kです。量子閉じ込め効果が明らかです。
ゲート・バイアス、ドレイン・バイアス共に0.5Vでのダブル・ゲート型MOSFET構造の伝導電流密度です。エネルギー・バランスとボーム量子ポテンシャル・モデルを使用しました。チャネルの中央近くの電流濃度は量子閉じ込め効果の影響を受けています。
エネルギー・バランス・モデルを用いて得た、ダブル・ゲート型MOSFET構造における電子温度です。プロファイルは、一つ上の図に示した断面図に垂直な、ソースとドレイン間のデバイス構造に沿って得られました。従来のモデルとボーム量子ポテンシャル・モデルの結果は、キャリア分布では大きな変化が生じるにもかかわらず、温度分布ではわずかな差異を示しています。

Rev.110113_08